「ヤバい奴」も同じ人間だ。話しかける勇気についてテレビ東京・上出Pに訊く

「ヤバい奴」も同じ人間だ。話しかける勇気についてテレビ東京・上出Pに訊く

リベリアの元人食い少年兵や台湾マフィアの組長など、「ヤバい奴らのヤバい飯」をリポートする、テレビ東京の番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート(以下、ハイパー)』。ディレクター兼プロデューサーの上出遼平さんは、世界中の物騒な場所にたった一人で突撃取材を敢行してきました。

一般市民はもちろん、警察すら近づかないような場所で「ヤバい人」に話しかけるのは怖くないのでしょうか? 多くの危険人物と打ち解けてきた秘訣、小手先のテクニックではない「コミュ力の本質」を上出さんに教えてもらいました。

※本取材はオンラインで行い、撮影は屋外で行うなど感染拡大防止策を施したうえで実施しています。

人間は100%死ぬ。明日死んでも後悔しないほうを選択すべき

―上出さんが世界中の「ヤバい」人たちや事柄に興味を持つようになったきっかけを教えてください。

じつは、高校時代に少しだけグレまして……(笑)。当時、「なんでこの行為は一般的に『悪』とされているのだろう」といつも考えていて、「悪」に対する法や心理について興味を持ったんです。その疑問を紐解くためにも、大学で少年法や少年非行犯罪学などを学ぶことにしました。

研究していくうちに、罪を犯した人たちは「完全に悪い奴ら」なのか、疑問を持ち始めて。環境や状況によって、罪を犯さざるを得ない人もいるかもしれない。直接話したこともないのに、最初から「悪人」と決めつけるべきではないなと。それで、善悪の境界が曖昧な部分にもっと目を向けて、「世界のリアル」を知りたいと思ったんです。
 
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上出遼平さん(撮影:Yuske Abe)

―その想いが『ハイパー』の根源になっているんですね。これまで数々の「ヤバい人のヤバい飯」をリポートされてきましたが、そもそも上出さんが考える「ヤバい人」の定義とは?

一言でいえば、「住む世界が圧倒的に違う人」です。台湾のマフィアやアメリカのギャングのように「危険性を感じる人」だけでなく、シベリアのカルト教団の信者のように「踏み入れたくない場所にいる人」も対象です。

ーなかでもいちばん身の危険を感じた経験を教えてください。

一部オンエアしましたが、アフリカのリベリア共和国での出来事です。墓場に住む元少年兵やギャングを取材した際、数十人に囲まれてカメラをむしり取られたり、フェンスに押しつけられたりしました。さすがに動揺しましたね。逃げ場がなかったですし、命の危険を感じました。

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リベリア共和国でカメラを取り上げられそうになる瞬間(画像提供:テレビ東京)

―地元の警察官も「絶対にあの場所には近づくな」と言っていた場所ですよね。仕事とはいえ、そんな場所に赴くのはかなり勇気がいると思います。何が原動力になったのでしょうか?

「後悔したくない」という意思ですね。たとえば、あの墓場に踏み込むことを諦めて日本に帰国したとして、医者から「余命1週間です」って言われたら、めちゃくちゃ後悔すると思うんですよ。どうせ死ぬなら、あのとき行動すれば良かったと。もしかしたら、自分の理想とする被写体が待っていたかもなって。

しかも、病気にならずとも人間は100%死にます。最近は「人生100年時代」ともいわれていますが、明日事故に遭って死ぬ可能性も十分ある。だから、ぼくは明日死んでも後悔しないほうを選択するようにしています。

―「後悔しない選択をする」というのは、日常生活においても大事ですよね。

そう思います。日常の小さな後悔って、挙げるとキリがないですよね。あの場に行っていたら運命的な出会いがあったかもしれないとか、あのとき喋りかけていたら友だちになれたかもしれないとか。

行動できなかったのは、きっとどこかで「あと何十年も生きられるし、また別のチャンスがくる」という慢心があるのでしょう。「どうせいつか死ぬ」と思えば守るものなんてありません。勇気を出してつねに攻めるべきです。

国境はあるけど、「人間」としての境界線はない

―現地の人と話す際に心がけていることはありますか?

自分とそこまで変わらない人間だと、信じて接しています。恐怖心が湧くときって、「得体が知れない」ものに接するときですよね。ぼくだって、腹を空かせたライオンに会いに行くのは怖いです。でも、会いに行くのは同じ人間です。

人を殺した過去があるかもしれないし、一度も腹いっぱい飯を食えたことがないかもしれない。だけど、どこかしら自分との共通点があるはずです。100%わかり合うのは難しくても、ふとした心の交流はできると信じていますし、その瞬間を探しに行くのが『ハイパー』のロケです。
 
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リベリア共和国で出会った、元少女兵で娼婦のラフテーさん(画像提供:テレビ東京)

―実際に接するなかで、自分との共通点を感じる瞬間は多いでしょうか。

はい。むしろ、「たまたま環境が違った」という相違点があるだけのような気がします。ぼくはたまたま日本で暮らしていて、台湾のおじさんはたまたまマフィアになり、ケニアの兄ちゃんはたまたまゴミ山に住むことになった。ぼくだって、彼らと同じ環境で生まれたら、同じ道を歩んでいたかもしれません。

だから、国境はあるけど、人間としての境界線は引くべきではないと思っています。実際、礼儀正しく話しかければ、向こうもちゃんと話を聞いてくれるケースは多いですしね。

―話す際に実践しているテクニックがあれば教えてください。

ゆっくり喋るようにしています。話すスピードが早くなると、どんどんヒートアップして、相手の怒りとか苛立ちに直結するケースもある。穏やかにやりとりするには、落ち着いた雰囲気をつくることが大事です。

あとは基本的なことですが、最初に握手をすることと、感謝を伝えるのはやはり大事ですね。人は肌と肌が触れたり、感謝されたりすると、相手のことを雑に扱いづらくなりますから。海外旅行で少し治安が悪そうな国に行く際は、現地の言葉で「ありがとう」を口癖のように言うのがおすすめです(笑)。

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基本的にロケは上出さんが一人で敢行(画像提供:テレビ東京)

―ほかにも、コミュニケーションの工夫はありますか?

工夫ではないですが、番組の企画意図のひとつでもある「一緒に食卓を囲む」というのは、距離を縮めるうえでかなり効果的だと思います。何かを摂取する瞬間は無防備で、争い合っている者同士では許されない行為。お互いにハンズアップしている状態と同じですから。

なおかつ、自分の体を形成するものを相手に見せているわけで、大げさにいえば「生き様を見せている瞬間」ともいえます。相当、心を許している証拠にもなる。日本では「同じ釜の飯を食う」とも言いますが、すごく有効なコミュニケーションの手段だと思いますね。

大事なのは「語りたいこと」があるか。小手先だけじゃないコミュ力の本質

―「コミュ力」は社会で活躍するうえで必要な能力だと思いますか?

小手先の能力だけなら意味がないと思います。たとえば、英語を喋れるようになりたいから留学する人って結構いますよね。でも、英語を喋ることがゴールになっていて、「英語を使って何をしたいのか」が見つかってない人も多い。言語ってコミュニケーションのツールに過ぎないから、そのあとのことを考えていないと意味がないと思うんです。

言語を習得するよりも先に、自分が「語りたいこと」「語るべきこと」があるかどうかのほうが大事。それがないと、身につけた英語力も宝の持ち腐れになってしまいます。まずは自分が発信したいことを見つけて、目的に見合ったコミュニケーションスキルを伸ばしたり、手段を増やしたりするほうが本質的ではないでしょうか。
 
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ケニアのゴミ山に住む青年たち(画像提供:テレビ東京)

―では、「語るべきこと」を見つけるにはどうすれば良いのでしょうか。

「聞くべきこと」に耳を傾けるのが第一歩ですね。この「聞くべきこと」とは、あらゆる人の意見や考え方です。それらを聞いたうえで情報を取捨選択して、自分の「語るべきこと」を明確にしていくのが最適だと思います。

しかしながら、「聞くべきこと」や「聞きたい相手」を限定的に考えている人は多い気がします。たとえば、道行く人に「誰の話が聞きたいですか?」と尋ねれば、多くが成功者の名前を挙げるでしょう。でも、成功者の体験談だけを聞いても、価値観は広がらないと個人的には思います。まあ、聞きたくなる心理については理解できますけどね。

―どんな心理でしょうか。

「あの人の話を聞きたい」という感情は、相手への「リスペクト」がセットになっています。だから、社会的地位や経済的な成功を収めている人にスポットが当たりやすいんです。言い換えれば、貧しい人や「ヤバい人」たちに対してのリスペクトが乏しいから、率先して話を聞こうとする人は少ない。

その点、ぼくは世界中の「ヤバい人」はもちろん、近所のおじいちゃんの話にも興味がありますし、どんな人にもリスペクトできる部分が必ずあると思っています。実際、成功者の体験談よりも驚きや発見があるケースも多い。自分の価値観を広げてくれるのは、必ずしも成功者とは限らないはずです。
 
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ロシアのカルト教団「ヴィッサリアン教」の村(画像提供:テレビ東京)

―いろんな人に対して、リスペクトを抱くには何を意識すれば良いのでしょうか?

自分の弱さや無知さを自覚すれば、おのずと他者へのリスペクトは生まれると思います。ぼくはこの意識があるから、ケニアのゴミ山に住んでいる少年に出会ったときも、「めちゃくちゃすごいな。自分が同じように生きていくのは絶対ムリだわ」って純粋に思えました。

相手にリスペクトを持って接していると、聞きたいことがたくさん出てくるんですよ。「それ、どうやるの?」とか「その瞬間はどんな気分?」とか。こっちが純粋な気持ちで興味を示していれば、相手も積極的に話してくれて会話がどんどん活発になる。こうした本質的なコミュニケーションは、双方の「聞きたいこと」と「語りたいこと」がマッチしたときに生まれるものだと思います。

「嫌われちゃうかも」は図々しい? 心に刺さった、ある芸人の言葉

―対人コミュニケーションでの「相手に語りたいこと」は、番組づくりにおける「視聴者に伝えたいこと」にも通じそうです。

まさにそうですね。しかし、テレビというマスメディアは「国民のみなさんに観てもらいたい」という思いばかりが強まり、次第に「反論がきそうな番組はやめましょう」という風潮になってしまいました。その結果、「伝えるべきこと」がなくなり、メディアとしての価値を失った。少なくとも、ぼくにはそういった危機感があります。

だからこそ、「ぼくが伝えたいこと」を発信するのは最優先事項だし、価値がわかる人にだけ届く番組をつくりたいんです。自分に嘘をついてまで、みんなに好かれたいと思わないですから。ぼくは「視聴者のみなさん」に向けて『ハイパー』をつくることはありません。「あなた」に向けてつくっていますと、これからも言い切りたいですね。
 
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ケニアのゴミ山で生活する当時18歳のジョセフさん(画像提供:テレビ東京)

―最後に、コミュ力について悩んでいる学生にアドバイスをいただけますか?

以前、ある番組でアンタッチャブルのザキヤマさんが「『嫌われちゃうかもしれない』と思うってことは、現状は好かれていると思っているんでしょ? ずいぶん図々しいな!」っておっしゃっていて。この考え方は、生きていくうえですごく大事だなと感じたんです。

嫌われないように心がけて行動しても、そもそも好かれているとは限らないし、興味すら持たれてないかもしれない。それなら、言いたいこと言って好きに生きたほうが良いですよね。この意識でいると、コミュニケーションの悩みも軽減されると思います。最後の締めなのに、ぼくの言葉じゃなくてすみません(笑)。

◆『ハイパーハードボイルドグルメリポート』からお知らせ


Paraviではスピンオフを含む全エピソードを配信中。Netflixでは一部を配信中。Amazon プライム・ビデオでも一部をレンタル配信中。

上出遼平さんの著書『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(朝日新聞出版)も好評発売中。

◆上出遼平さんが登壇! 「MFC」主催のオンラインイベント開催

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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』プロデューサー上出遼平に聞く、"ヤバい世界"を生き抜くためのコミュ力

世界の“ヤバい”奴らに取材してきた上出さんが、皆さんからの「コミュ力のギモン」に答えます。
日時:8月18日(火)18:00〜19:00
場所:オンラインでの実施。
詳しくはこちら


【プロフィール】
上出遼平
1989年東京生まれ。早稲田大学卒業後、2011年株式会社テレビ東京に入社。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』シリーズ企画、演出。企画、ロケ、撮影、編集まで番組制作の全過程を担う。空いた時間は山歩き。


【クレジット】
(取材・執筆・編集:吉田真也〈CINRA〉 写真提供:株式会社テレビ東京)